吸血鬼化後ディオが割りと謙虚だったら…と争わない二人を妄想してみました。
なので大分コレジャナイディオです。一般向けの話ですが、BLと言えばBL?

永遠の景色

愛しい父を亡くし、思い出深い家も焼け落ち、それまで自分が持っていたものは何もかもなくしていた。
ただひとつ得たものがあるとしたら、目覚めた時ジョナサンの傍で必死の看護を続けてくれていた
幼い頃のガールフレンド、エリナ・ペンドルトンとの偶然の再会だった。
峠こそこしたものの、ジョナサン・ジョースターはそれから暫く病院で安静に過ごす日々を送った。

体も大分癒えベットの上で体を起こす事も苦にはならなくなった頃だった。
夜中にふと何かの気配を感じた気がした。
風を入れるため少しだけ空けておいた窓の外から。
気になって窓を見た次の瞬間、ベットの横に人の気配を感じ慌ててそちらへと視線をやった。

「…?!」
「お前も生き延びたようだな、ジョジョォ…」
「ディオ?!い、生きていたのか…ッ!?」

そこには倒したはずのディオの姿があった。
驚愕に目を見開き、そして次にこのボロボロの体でどうやって相対するべきか考え戦慄した。

「よせ。おれには戦う気がない」
「なんだって?」

それは意外な言葉だった。
人を殺す事に躊躇いもなく、まるで悪魔のようなあの所業をやってのけた…
燃え盛る火の海を思い出し、とても信じられない気持ちで彼の顔をまじまじと見た。
そんな言葉信じられるはずがない。

「人を超越した今おれは改めて考えた。
 この姿になってすぐはちょっとばかりハイって奴になったが、今は落ち着いて自分の状況を見ているつもりだ。
 おまえは俺を消し去るべき悪と見ているようだが…」

勿論そうだ。
彼のような者を野に放ってはいけない。
これ以上の悲劇を生まないためにも。

「これは提案だ、ジョジョ。
 おれはこれから人から生命を奪う事を最低限に抑えよう」
「何を言っているんだ…?!
 最低限なんて…命を奪う行為…それは悪だ!
 君はぼくの目の前で嬉々として人を殺した…
 君は自然の摂理から外れた恐るべき悪魔になってしまったんだッ!」
「知らないのか?ジョジョ。
 自ら捨てられる命がこの世に五万と存在する事を。
 お前が見る光の世界からは陰になって見えないだろう。
 その光の影で死にたいと切に願う人間共が存在する事を…
 どうせ捨てる命を、相手が自分の意思で差し出した時だけそれをもらうのだ」
「なっ…」
「だからおまえはおれと言う存在を黙認しろ
 こんな姿になってもおれは生きている
 おまえはただ生きたいと願うものの生を奪うのか?」
「な、何を都合のいい事を…
 君は…ッ」
「人間も生き物の命を食って生きているだろう」
「それは…」
「人でなければ奪ってもいいのか」
「それは…ッ」
「生きたいだけだ」
「だがっ…君はッ…!……ううっ…」

頭の中でごちゃごちゃと考えが絡まり、思わずジョナサンは頭を抱えた。

「黙認しろ。
 俺が裏切ったりお前が信じられないのなら、俺はウィンドナイツ・ロットの町外れに居を構えている。
 殺しにでも来るといい」

まるで信じられない言葉を残して音も立てずにディオの姿が窓から外に抜け出すのが見えた。
ジョナサンは呆然とディオの姿が消えた方向を見つめ続けた。





その日はとても寒く、前日から降り続いた雪は町に降り積もった。
吐く息は白くまだ降り続く雪はコートの肩に、帽子にうっすらと降り積もる。
その紳士は人気の少ない寂しい路地で馬車から降り、まるで行き先を隠すかのようにひっそりと歩き出した。
長く歩いた後に古めかしい大きな建物の前で立ち止まった。
少し戸惑う素振りを見せてから、暫くして決心したかのようにその扉に手を伸ばした。
扉は施錠されておらず簡単に開いた。
日が入らぬよう窓が打ち付けられており、中は夜のように静かだった。
室内に入り蝋燭の明かりを頼りに目を凝らし、暫くして探していたものが目に映った。

「…ディオ」
「…ジョジョ」

ディオは大きな一人がけの椅子に深く腰掛けまるで石造のように動かない。
言葉だけが返ってきた。

「…久しぶり」
「…髪が伸びたな」
「え……そうかい?」
「外は雪か…」
「ああ、積もってるよ」

着ていた雪のついたコートを脱ぎ雪を払いながら答えた。
火の無い室内は寒く吐く息は白い。
その冷たい空気に直接触れ肺の中にも入れることで意識して気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと軽い深呼吸をしてからジョナサンは語りだした。

「…あれからぼくは結婚したよ。男の子が生まれたんだ。
 手がかかるけど…とてもかわいい。
 ほんの少しずつだけど成長していくわが子の姿を見るのはとても楽しいよ」
「……」
「ディオ…君の姿はちっとも変わらない
 君は本当に人間ではなくなってしまったんだな…」

目の前の義兄弟には複雑な気持ちが山のようにある。
けれどやはりこうして人ならざるものになったその姿を見ると痛ましい気持ちも覚えた。

「その……本当に君は約束を守ってくれている…
 君の生前の惨殺行為は裁かれるべき重い行為だ。
 だが君はもう人ではない…人の法には裁けない…
 父さんの事も…ぼくは君を許せる訳ではないよ…でも…」

ゆっくりと目を瞑る。
言葉にするのは勇気が要った。
それはジョナサンにとって過去の自分の信念を折る言葉だったから。

「…ぼくは君を誤解していたようだ。
 あれから何の惨劇も聞こえてこない…君は本当に静かに暮らしているみたいだ。
 君の事、誰にも話していないよ…
 ただ生きたいと願うだけのものの想いを絶つことはぼくには出来ない…」
「そうか」

病院でディオと会ってから数年が過ぎ去っていた。
大切なものを失った憎しみや怒りは簡単に消えはしない。
けれど、ただひたすらにディオを憎み続られる程ジョナサンは不幸ではなかった。
新しい家族はジョナサンの荒んだ心を癒し、ジョナサンは赦すことを選んだ。

「そうだな……おれも誤解していた……永遠の意味を。
 永遠に生きると言う事は終わりがないということ。
 おれは全ての思い出を置いて行き、おれは全ての思い出に置いていかれるだろう。
 絢爛たる永遠…全てを得たと言う事は零に等しいと言う事。
 なぁジョジョ、俺はおまえのことはちょっとくらいマシだと思っている」
「ディオ?」
「お前は……そう、世の中腑抜けのマヌケばかりだと思っていたが…
 ジョジョ、思えばおまえは少しばかり違った。
 このディオがお前を追い詰めたと思うたびに辛酸を舐めさせれたのだからな…」

初めてディオが体をジョナサンの方に向き換え目が会う。
何か不思議な空気を感じた気がしてジョナサンは戸惑った。

「だから、おまえの人生を俺にくれ」
「え?」

気がついたときにはディオが目の前に居て、その次の瞬間ジョナサンの右首から肩にかけた服がまるで紙でも破るかのように簡単に破かれた。
首元に激しい痛みを感じたと思った時にはもう遅かった。
ぶつりと音がしてディオの顔が首元に埋められ、その異常に発達した犬歯がジョナサンの首筋に深々と刺さっていた。
咄嗟に引き剥がそうとディオの背中に手を回すがびくともしない。
歪な形かもしれないが、やり直せると思ってこの場所に来た。けれど……。
ジョナサンの頭に最愛の家族の顔が過ぎり、噴出すような焦りが息を荒げさせた。

「ディオ…ッ!」
「全てに置いていかれる前におまえをよこせ。
 全ての生命は老い全ての景色は四季を一巡りするごとに変わり、俺の知らないものに姿を変えていくだろう」
口元を紅く染めたディオが淡々と語る。
「最初は問題ない。だが10年…100年…1000年…10000年…俺の前に時は永遠に続く。
 俺は変わり行くだけのその景色に飽きてしまうかもしれない」
「やめ…ッ!」
「だから、俺に一つだけ変わらない永遠を与えてくれ。
 『善人』は殆どの人間が狂う…『ジョナサン・ジョースター』は死ぬだろう。
 だが多少変質しても構わん。
 俺が生きていた時代の、俺が青春という時を生きていた頃と変わらないものを!
 その証を!」
「……ッ!!」

再び真っ赤に染まった首筋にその犬歯が深く深く埋められる。
立っていられない程の激しい痛み、激しい眩暈になにもかも見えなくなりながらもディオの腕の中もがき続ける。
もがく最中胸元から何かが落ちてコツリ、と硬い音を鳴らした。
続けてパキリとガラスが割れるような音が意識が遠ざかりつつあるジョナサンの耳に届いた。

「 おまえは…笑いが込み上げるほど程善良で慈悲深いだろう?」

ジョナサンの懐から落た懐中時計がディオに踏み潰され時を刻むその役目を終えた。

描きたかった話なのですが、台詞以外を文章用に足したので描きたかった話と少し変わってしまった感が…。
足せば足すほど本来描きたかったものから遠ざかっていく!文章下手なだけですね。
ディオの青春時代、自分が人として生きてきた事に対する執着心が描きたかったそうです。
ディオは長生きする気ですが柱の男の事なんかは忘れましょう。